『それは、大人の事情。』【完】
「そうだね。喜んでいたよね。だから僕も梢恵ちゃんと同じ事を思ってた。憧れの写真家のアシスタントになる事が嬉しかったんだと。でも、違ってたんだよ。
蓮が喜んだ本当の理由は、日本を離れる事が出来ると思ったから……」
「蓮は、日本に居たくなかったの?」
「うん、正確には、梢恵ちゃんの近くに居たくなかったんだって」
もう想われてないってのは分かってたけど、そこまでハッキリ言われたら、さすがにヘコむ。
「そ、そう……私も随分嫌われたモノだね」
半ば投げやりにそう言うと、オーナーが「その反対だよ」って慌てて私の言葉を否定した。
「蓮は、梢恵ちゃんの事が好きだから……忘れられなかったから梢恵ちゃんの傍に居たくなかったんだよ。
蓮はね、梢恵ちゃんが結婚式を挙げる日に梢恵ちゃんの近くに居たら、自分の気持ちを抑えられず君を奪いに行きそうで怖かったって言ってた。
だからハウエルからの話しを聞いた時、これで梢恵ちゃんの幸せの邪魔をしないで済むって安心したそうだ」
「うそ……」
そんなのって……蓮はイギリス行きの話しがあった時、まだ私を好きだったって言うの?
「嘘なんかじゃないよ。これは本人から聞いた話しだから間違いない」
「じゃあ、どうして理央ちゃんと……」
「それは、自分の気持ちに決着を付ける為。梢恵ちゃんの前で理央ちゃんを受け入れる事で、もう戻れないんだと自分に言い聞かせていたんだよ。
そして、梢恵ちゃんもそんな自分を見たら安心して結婚出来るだろうと思ったらしい」