『それは、大人の事情。』【完】
頬に部長の膝の温もりを感じながら、私はこんな情熱的な女だったんだと驚いていた。二十九年生きてきて、初めて知った本当の自分。
でも、心のどこかでずっと望んでいたのかもしれない……愛されたいって……
「……別れた奥さんと、寄りを戻すなんて……そんなの嘘よね?」
その一言で全てを察したのか、私から目を逸らした部長が「なるほど……」って納得の表情を見せる。そして私の腰を両手で抱え、軽々と持ち上げたんだ。
フワリと浮いた体は、背を向ける形で部長の膝の上に乗せられ後ろから包み込む様に抱き締められる。それと同時に、低く掠れた声が耳をくすぐった。
「嫉妬してくれるとは、嬉しいね」
「部長……?」
「長い話しになる。それは今夜、ちゃんと説明するよ。仕事が終わったらあの裏口で待っててくれ」
それだけ言うと私の弱い首筋に息を吹きかけ、熱い舌を這わせてくる。堪らず肩を窄めて彼の腕から逃げようとするが、腰にまわされた逞しい腕がそれを許してくれない。
とうとう我慢出来ず、部長室に私の甘い声が漏れ響く。
「そんな声出すな。昼間っから変な気分になるだろ?」
意地悪な部長。ワザとそうさせてるせに……
「これ以上ここに居たら変に思われるぞ。そろそろ戻れ」
急に仕事モードになった部長に背中を押され、渋々部長室を出て自分のデスクに戻ったんだけど、さっきより気持ちはモヤモヤしていた。
なんだか上手く誤魔化されたような……本当は、離婚した奥さんとの関係をキッパリ否定して欲しかったのに……