『それは、大人の事情。』【完】
定時近くになった午後四時半。午前中に発注し忘れていた商品の到着日の確認が取れホッとした私は、オフィスの出入り口近くにある自販機でコーヒーを買おうとデスクの引き出しからバックを取り出した。
普通のOLが持つには大き過ぎる私のバックの中には、メイク道具一式と通帳や印鑑、その他諸々、大切なモノが全て入っている。
佑月は重くない?って笑うけど、今ここで大地震が起こってもこのバックさえあれば、私は十分生きていける。
そんなバッグに手を突っ込み財布を探していたら、冷たく硬いモノが指に触れ、なんだろうと思い取り出すと、昨日、白石蓮から渡された缶コーヒーだった。
「あ、すっかり忘れてた」
手にした缶コーヒーを眺めていたら、斜め前に座っている佑月が呆れた様に笑う。
「何?缶コーヒー持参?梢恵のバックはなんでも入ってるんだね」
「あ、いや、これは……」
そう言い掛けてハッとした。営業に出て空席になってる佑月の隣のデスクに座り、声を潜めて聞いてみた。
「ねぇ、佑月は清掃会社の人……知ってる?」
「清掃会社の人?誰の事言ってんの?」
「ほら、ハーフの男の子。綺麗な顔した子だよ」
「あぁ~あの子ね。そりゃ~知ってるわよ。ウチの会社の若い女子社員が狙ってる子でしょ?モデルみたいだよね。あんなにイケメンなのに、なんで清掃会社なんかで働いてんだろうって皆言ってるよ」
佑月は彼を知ってたんだ。てか、若い女子社員が狙ってるなんて初耳だ。