『それは、大人の事情。』【完】
「その子がどうしたの?」
「うん、その子ね、土曜日に佑月とランチしたカフェのオーナーの甥っ子で白石蓮って言うんだけど、昨日、偶然ここで会って、変な事言われてさ……
私の事見てたとか、いい噂のない男とばかり付き合ってるとか……なんかストーカーみたいで気味悪くて」
本当の事を言っただけなのに、佑月は焦った様に唇の前に人差し指を立て、もう片方の手で私の口を押える。
「シーッ!もう、梢恵ったら声が大きい。その子のファンに聞かれたらアンタ殺されるよ!」
「へっ?」
「おじさんにしか興味のない梢恵は知らないかもだけど、その子、ファンクラブが出来るくらいモテモテなんだから~」
「ファン……クラブ?」
確かにモデル並みのイケメンだけど、ファンクラブとは……今時の若い娘って、一流企業って言われてるこの会社の男性社員より、見た目オンリーで、そっちなんだ……
妙に感心してると、佑月が私のスーツの裾を引っ張り「噂をすれば、ほら!」って自販機の方を指差す。見れば、白石蓮が自販機横の缶のごみ箱を開けてる。
「彼、二日に一回、大体この時間に来てるわよ。梢恵、知らなかったの?」
「あぁ……そう言われてみれば、空き缶の回収に来てた人がいたような……」
「呆れた……全く眼中にないって感じだね」
そんな事言われても、そんなのいちいち見てないし……って思いながらオフィス内を見渡すと、若い女子社員達が仕事の手を休め白石蓮に熱い視線を向けている。
ぼんやりとその様子を眺めていたら、空き缶の回収を終えた彼がこっちを向き、ニッコリ微笑んだんだ。