『それは、大人の事情。』【完】
そして「梢恵さん、昨日はどーも」なんて言うから、彼に見惚れていた女子社員達が一斉に私を見る。
その殺気立った視線に焦った私は、白石蓮を完全無視!彼に背を向け、知らん顔で手に持っていたあの缶コーヒーを一気に飲み干す。
もぅ~なんで、あんな事言うかな?変な誤解されて恨まれたらどうしてくれるのよ!
空になった缶をデスクの上に置き、イラつきながら「佑月、あの子、もう行った?」と聞くと、佑月が引きつった笑顔で「後ろ…」って呟く。
その直後、背後に人の気配を感じ、伸びてきた手が空になったコーヒーの缶をさらっていく。そして、頭上から降ってきた声。
「これ、空っぽでしょ?回収しますね」
「えっ?」
反射的に上を向くと、吸い込まれそうな薄いブルーの瞳に私の顔が映っていた……
「あぁ~やっぱ、このコーヒーなんだ。もう補充されてたからまた買いに来てね」
体を屈め、屈託のない爽やかな笑顔で私を見下ろしている。
こんな近くで、そんな綺麗な顔して笑わないでよ。男として意識してなくてもドキッとしちゃうじゃない。
慌てて目を逸らし、何も言わず席を立つと自分のデスクに戻って再び彼に背を向けた。
この子、いったい何考えてんだろう?十歳も年上の私をからかって何が面白いのよ。
その後は言うまでもなく、若い女子社員達の冷たい視線を全身に受け、生きた心地がしなかった。ホント、いい迷惑だ。