『それは、大人の事情。』【完】
「叔父さんに聞いた。もう寝てるかもって思ったけど、早く返したくて来ちゃったよ」
「カフェのオーナーに?……そうだったの」
納得し、一応「有難う」とお礼を言うが、彼はなかなかピアスを返そうとしない。それどころか、ドアの隙間から部屋の中を覗き込みとんでもない事を言い出した。
「ねぇ、ちよっとだけ部屋に入ってもいい?」
「はぁ?何言ってんの?」
いくらなんでも、こんな深夜に男性を部屋に入れるなんてあり得ない。
「そんなのダメに決まってるでしょ!」
「どうして?別にいいじゃん。三時間も雨の中で、こんなちっこいピアス探してやっと見つけたんだよ。コーヒーの一杯くらいご馳走してくれてもいいんじゃない?」
この子ったら、何を勘違いしてるんだろう?その原因を作ったのは自分じゃない。恩着せがましくよく言うよ。
当然、キッパリ断る。すると何を思ったのか、玄関の前にドカリと座り、また捨て犬みたいな寂しそうな目で私を見つめてくる。
「入れてくれるまで、ここを動かないから!」
「ちょっと、いい加減にしてよ」
暫く「入れて」「入れない」と押し問答が続き、ヒートアップした私達の声は徐々に大きくなっていく。その時、隣の部屋のドアが少し開き、隣人の女性が顔を覗かせた。
こんな夜中に玄関先でモメていたら隣の女性が不振に思ったのだろう。
「あの……何かあったんですか?」
「あ、いえ、お騒がせして、すみません」
焦った私は廊下に座り込んでいるずぶ濡れの白石蓮を立たせると、自分の部屋に引っ張り込んだ。