『それは、大人の事情。』【完】
「これ飲んだら帰ってよ」
そんな気持ちを白石蓮に悟られるのがイヤで愛想なくそう言うと、チンチクリンのジャージを着た白石蓮にコーヒーの入ったマグカップを差し出す。
「えぇ~せっかくだから話ししようよ」
「君と話す事なんて何もない」
冷たくあしらうが、ふと思う。そういえば、彼に聞きたい事が山ほどあったんだ……
「じゃあ聞くけど、君はいつから私を知ってたの?」
マグカップを両手で抱えコーヒーをすすっていた白石蓮の動きが一瞬、止まった。
「それは……二年前かな。俺が梢恵さんが働いてる会社に委託さてる清掃会社に勤めたばかりの頃、梢恵さんを見掛けて、綺麗な人だなって思った」
「私が……綺麗?」
「うん、どんな人だろうと思って意識する様になって、一緒に働いてるおばちゃん達に聞いたりした。清掃員ってね、結構色んな所に出入りしてるから情報持ってるんだよ」
彼の意味深な笑顔にゾクリとして、思わず体を仰け反らせる。
「何それ?どういう事?」
「梢恵さんの会社の人って、俺達が近くで掃除してても、あんま気にしないで噂話しとかするんだよね~。
特に清掃のおばちゃん達は恋愛話しが大好物だから聞き耳を立てて聞いてるんだよ。で、あの部署の誰と誰が付き合ってるとか、不倫してるとか、しょっちゅう情報交換してるよ」
「それで、私の事を聞いたの?」
「そう、色んな男の人と付き合ってる好きモノだって」
「す、好きモノ……ですって?」