『それは、大人の事情。』【完】

「ま、いいか……」


一瞬にして部屋はいつもの様に静まり返り、テーブルの上には、彼が置いていったシルバーのピアスが光っている。


「せっかく探して持ってきてくれたんだものね。キャッチ……新しいのにしなきゃ……」


ついさっきまで早く帰ればいいと思っていたのに、いなくなるとちょっと寂しい。白石蓮……不思議な子だ。


でも、彼のせいですっかり目が冴えてしまい、すぐには寝付けそうにない。仕方なくシャワーを浴びようとバスルームに行くと、洗濯籠の中に白石蓮が脱いだずぶ濡れの服が入っていた。


あの子ったら、自分の服の事すっかり忘れて帰っちゃった。


「ったく、困ったもんだ」なんて呟いたが、言葉とは裏腹に私の顔はほころんでいた。




―――白石蓮が私のマンションに来て数日後……


彼に服を返そうと会社に持ってきたんだけど、あの日以来、定時間近に自販機の缶を回収に来るのは他の清掃員。彼の姿を見掛ける事はなかった。


どうしたんだろう?雨に濡れて風邪でも引いたのかな?帰りに裏口にある事務所を覗いてみようか……そんな事をあれこれ考えていたら、佑月が青ざめた顔で私の席に駆け寄って来た。


「梢恵……どうしよう……私、ミスっちゃった」


動揺してる佑月を落ち着かせ話しを聞くと、どうやら発注ミスをしてしまったらしい。


「海外商品リサーチ部が一年掛けてモニターして、やっと輸入がOKになった商品の到着日を間違えて発注しちゃった……」


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