『それは、大人の事情。』【完】
「うそ……」
その商品の事なら知ってる。確か、明後日から我が社が主催する輸入食品フェア―で、目玉商品として展示販売する事になってるコーヒー豆だ。
「で、到着日は?いつだったの?」
「今日の夜に船便で到着しなきゃいけないのに、私が発注した伝票には、一週間後の到着になってた。もう間に合わない……」
ガックリ肩を落としうな垂れる佑月を見て、なんとかしてやりたいと思った。でも、もう時間がない。
「やっぱ、ダメだよね。課長に事情を話してくる」
俯いた佑月の横顔は今にも泣き出しそう。今までこんな凡ミスなんてした事ないのに……きっと、修の事で仕事に集中出来なかったんだ。
「待って!佑月」
ゆっくり歩き出した佑月の腕を掴み「出来る事はやってみよう」と声を掛けた。
「船便じゃ間に合わないけど、空輸なら間に合うかも」
「空輸?そんなの経費が掛かり過ぎるよ。上が許可するはずない」
「いいから、佑月は現地に連絡して至急商品を発送してもらえるよう手配して。私はサンプルが社にどのくらいあるか確認してみる。ここじゃ他の社員もいるから会議室から内線してみる」
既に定時になり、帰り出した社員に紛れオフィスを出ると、会議室の電話で海外商品リサーチ部に内線を掛ける。
『はい、海外商品リサーチ部の北山です』
北山……?嘘でしょ?
聞き覚えがあるその声に驚き、思わず電話を切ろうとしていた。けど、佑月の為だと思い直す。
「輸入食品事業部の……朝比奈ですが、お聞きしたい事がありまして……」
少し間を置き、受話器から聞こえてきたのは『……梢恵か?』と言う優しい声だった。