『それは、大人の事情。』【完】
真司さんがそこまで私の事を真剣に考えていてくれたなんて……
彼の本心を知り、こんな状況で不謹慎かもしれないけど、嬉しくて頬が熱くなる。そんな私を見た佑月が「嘘でしょ……」と低い声で呟き、驚きの表情を見せる。
しかし、突然の結婚宣言をした真司さんはというと、言葉を失い呆然と立ち尽くしている修に冷めた視線を向けていた。
「海外商品リサーチ部の北山係長だったよな?君には少々聞きたい事がある」
「僕に……ですか?」
「そうだ。これは上司としてではなく、あくまでもプライベートな話しだ。悪いが、朝比奈と森下は出て行ってくれ」
彼の鋭い眼差しに一抹の不安を感じた。それは佑月も同じだった様で、会議室を出るのを躊躇っている。でも、真司さんも修もいい大人だ。社内で騒動を起こすような事はしないだろう。きっと、冷静に話しをするはず。
「……行こう。佑月」
「でも……」
「私も佑月と二人っきりで話しがしたい」
この時、私はある決心をしていた。それは、大切な親友を失うかもしれないとても辛い決断―――
戸惑う佑月と会議室を出て、廊下の奥にある非常階段の扉を開ける。一歩外に出るとビル風が吹き上げてきて、私達は乱れる髪を気にしながら向き合った。
「話しって、何?」
そう聞く佑月に、私は意を決し、二年前の修との事を全て正直に話した。私が話し終わるまで佑月は一言も発する事はなく、表情を変える事もなかった。