『それは、大人の事情。』【完】
『専務夫婦は、この雨の中ゴルフらしい。実家には誰も居ないみたいでね。絵美の姉家族も温泉旅行だって断られたんだ。もう梢恵しか頼れる人がいないんだよ』
そこまで言われたら断れない、渋々娘さんを預かる事を承諾した。
『有難う。助かったよ。今から梢恵のマンションに娘を連れて行く』
「えっ?ここに連れて来るの?」
驚いてそう言ったが、既に電話は切れていた。
どうしよう……子供が喜ぶ様なおやつもジュースもない。どんな事して遊んであげればいいんだろう?
オロオロと部屋の中をウロついていたら私は重要な事を思い出した。
「あぁっ!そうだ!白石蓮の洗濯物!」……でも、もうすぐ真司さんが来る。持って行く時間がない。それに、まだ乾燥機は動いてる。
そうこうしてる間に玄関のチャイムが鳴り、真司さんが娘さんを連れて現れた。
ピンクのリュックを背負い、あのハート柄のタオルを握り締めたツインテールの娘さんは、初めて見る私を警戒する様に大きな目をめいっぱい見開き固まっている。
「沙織(さおり)この人はパパの知り合いのお姉さんだ。用事が済んだらすぐに迎えに来るから、少しの間、一緒に居てくれるかな?」
優しく話し掛ける真司さんに、沙織ちゃんは表情を変える事なく小さく頷いた。
「すぐに迎えに来てくれるんだよね?」
「あぁ、すぐだ」
納得したのか、沙織ちゃんは真司さんの手を離し、私に向かって「水谷沙織です」と言って、ペコリを頭を下げた。