『それは、大人の事情。』【完】
沙織ちゃんの様子を見た真司さんが安心して玄関を出て行くと、なんとなく気まずい雰囲気が流れ、お互いどうしていいか分からない状態。
初めが肝心なのに、しっかりしなきゃ……
そう思った私は、笑顔で沙織ちゃんを手招きし、部屋の中に連れて行く。
と言っても、真司さんの部屋みたいな立派なリビングなんてない。居間兼寝室のローテーブルの前に詩織ちゃんを座らせ、明るく声を掛ける。
「急だったから何もなくて……沙織ちゃんはリンゴとか好き?」
「はい……」
「そう、良かった。今、リンゴむくね」
小さな子供は嫌いじゃないけど、普段あまり接する機会がないからどうやって対応すればいいのか分からない。だから妙なテンションでどうでもいい質問とかしちゃってる。
私がむいたリンゴを遠慮気味に少しかじり、ほとんど頷くだけの沙織ちゃん。やっぱ緊張してるんだと思うと、その緊張が私にまで伝染して、とうとう会話が途絶えてしまった。
自分の部屋なのに居た堪れなくて、出来るものならこの場から逃げ出したかった。
その時、今までほとんど喋らなかった沙織ちゃんが私をジッと見て「お姉ちゃん、パパの恋人?」と聞いてきたから焦って視線が泳ぐ。
真司さんが沙織ちゃんに私の事をどう説明しているのかも分からないから取りあえず笑って誤魔化すと、沙織ちゃんの表情が変わった。
「別に隠さなくていいよ。ママが言ってたから。パパに新しい恋人が出来たって」
やけにサバサバした感じでそう言うものだから、六歳の沙織ちゃんが凄く大人びて見える。
「そう……なんだ」
「それで、パパと結婚するの?」