『それは、大人の事情。』【完】
昨夜、部長はマンションまで送ると言ってくれたけど、私はそれを断った。彼とはあくまでも体だけの関係。プライベートに入り込まれるのはイヤだったから……
コンビニの駐車場に到着すると、エンジンを掛けたまま止まっていた黒のセダンが短いクラクションを二回鳴らし、運転席の窓が静かに下がる。
「あっ、部長?」
無造作に流した髪にラフなシャツ姿。スーツを着ている時とイメージが全く違う。それに、会社では黒縁の眼鏡なのに、今日はフレームの細いシルバーの眼鏡をかけてる。
そのギャップが妙に新鮮で、意に反して胸が高鳴る。
「……乗れ」
でも、口調はいつもと一緒。実に素っ気ない。言われるまま助手席に乗り込むと、車は大通りを滑る様に走り出した。
「で、何食べるんですか?」って聞いてみたけど、返ってきた返事は一言―――「行けば分かる」
なんだろう?この人。全然面白くない。こんな愛想のない人だから奥さんもイヤになって離婚したのかもね。なんて考えていたら、車が高級焼き肉店の駐車場で止まった。
「降りるぞ」
「あ、ちょっ……待って下さいよ!」
無理やり誘っておいて、私を気遣う様子は全くない。車をロックすると振り返る事なく店に入って行く。そして、何を食べたいかも聞かず勝手に注文してる。
テーブルに分厚い塩タンが運ばれてきても表情を変えず、無言で淡々と肉を焼く姿にため息が漏れる。
「部長、どうして私を誘ったんですか?」
「んっ?」
「私がここに居る意味あるんでしょうか?」