『それは、大人の事情。』【完】
「雨が止んでいる内に、梢恵の荷物を俺の車に運ぼう」
真司さんは抱いていた沙織ちゃんを下ろし、玄関横に置いてあった私のキャリーバックに手を伸ばす。
有無を言わさぬ真司さんの言動に違和感を覚えたが、その気持ちを口に出す事が出来なかった。
今私が沙織ちゃんとの同居を拒否すれば、彼は私との別れを考えるだろう。それほど真司さんは娘の沙織ちゃんを愛してる。一緒に暮らす事を何より望んでいるんだ。
私は沙織ちゃんに勝てる自信なんてなかったもの。でも、本当にこのまま三人で暮らしていいのかな……
心の中で様々な葛藤があったが、結局、私は言われるまま真司さんの車に乗り、沙織ちゃんと三人で彼のマンションに向かった。
車の中には、私の荷物の他に沙織ちゃんの荷物も積まれていて、それを複雑な気持ちで見つめると、前の席に座っている二人に気付かれない様にため息を付く。
同棲する日を楽しみにしていたのに、まさかこんな事になるなんて……
真司さんのマンションに荷物を運び一段落した後は、沙織ちゃんが食べたいと言ったピザを注文し、沙織ちゃんが観たいと言うアニメを鑑賞する。
何もかも全て沙織ちゃん優先。ここに来てから真司さんは私を見てくれただろうか?視界には入っていただろうけど、彼の目は常に沙織ちゃんに向けられている。
私は、なんの為にここに来たんだろう……
そんな疑問を口にしたのは、沙織ちゃんが眠った後。リビングのソファーに寄り添い座り、彼の腕が私の肩を抱いた時だった。