『それは、大人の事情。』【完】
「そんな事を考えていたのか?」
「だって、私は邪魔者みたいな気がしてたから……」
私の気持ちを知った真司さんが苦笑いを浮かべ、申し訳なさそうに私の髪を撫でる。
「それは、すまなかった。梢恵になんの相談もせず沙織を引き取ったのは悪かったよ。でもな、俺は沙織の父親だ。沙織を幸せにする義務がある。
沙織が俺と暮らしたいと言った時、余程の事があったんだと思ったんだ。娘が母親を拒絶するなんて普通じゃないからな。
もちろん絵美は沙織を俺に渡すのを嫌がったが、幼稚園の夏休みが始まるまでって事で納得させた」
「夏休みが始まるまで?」
「俺も仕事があるからな……一日中、沙織と一緒には居られない。それまでに沙織の気持ちを落ち着かせて、沙織に何があったか確かめるつもりだ」
少し気持ちが楽になった。夏休みまでなら二週間もない。そのくらいならなんとかなるかも……
「だから、梢恵も協力して欲しい。沙織に優しくしてやってくれないか?」
真司さんに頭を下げられ、やっと気付いたんだ。私は、自分の事しか考えていなかった事に……
真司さんを好きになった時から沙織ちゃんの存在は意識していた。彼の娘なのだから会えば優しくしてあげなきゃって思ってた。
でも、奥さんに引き取られた沙織ちゃんが真司さんと暮らす事になるなんて想像もしていなかったから、現実にそうなって、焦ってしまったんだ。