『それは、大人の事情。』【完】
マンションの前に止まっている真司さんの車を確認し、次に白石蓮の姿を探すが、どこにも見当たらない。
まだマンションの中に居るんだ……このマンションを出て行く白石蓮の姿を見たら、真司さんはどう思うだろう?
『―――梢恵?聞いてるのか?』
「う、うん、すぐ下りてく……」
すると電話を切った直後、あの紙袋を抱えた白石蓮がマンションの玄関を出て、真司さんの車に近付いて行くのが見えた。
お願い。二人とも気付かないで……
祈る様な気持ちでその光景を眺めていたんだけど、私の願いは叶わず、無情にも運転席の窓が下がり、白石蓮の歩みが止まった。
「あぁ……やっぱり気付いた……」
眼下の二人は短い会話を交わし、白石蓮が車の中を覗き込んでいる。が、すぐ軽く会釈して再び歩き出した。車から離れて行く白石蓮を目で追いながら私はホッと息を吐く。
険悪なムードには見えなかった。そうだよね。私の部屋から出て行ったところを見られたワケじゃないし、そもそも白石蓮と私はなんの関係もないんだから……心配する事なんてないんだ。
自分にそう言い聞かせ、部屋に戻ってバックを持つと真司さんの元に急ぐ。
「お待たせ!早かったね」
必要以上に明るい声で後部座席に乗り込むと、案の定、真司さんが白石蓮に会ったと話し出した。
「……あの清掃会社の子に?」
「あぁ、たった今、偶然バッタリな……」