『それは、大人の事情。』【完】

「そ、そうなんだ……」


早く話題を変えたかったからあえて軽く流したのに、真司さんは車を発進させるとバックミラー越しに私をチラ見して、白石蓮がなぜここに居たのか、その理由を当ててみろと言う。


「さあ……分かんない」

「即答しないでちょっとは考えろよ。彼がここに居た理由を聞いたら梢恵も驚くぞ」


まさかあの子、私の部屋に来たって真司さんに喋っちゃったんじゃ……


そう思ったらどうしても気になり、汗が滲む手をギュッと握り締め恐る恐る聞いていた。


「理由って、なんだったの?」


その時、真司さんが突然クラクションを鳴らしたものだから、驚いた私は弾かれる様に顔を上げる。すると歩道を歩いてた白石蓮がクラクションの音に反応して振り返った。


車が彼の横を通り過ぎる瞬間、白石蓮と目が合い心臓がドクリと大きな音をたてる。


「あのマンションに、彼の彼女が住んでるらしい」

「えっ?彼女?」

「そう、なんでも彼女に洗濯してもらったパジャマを取りに来てたとか……アイツ、いい男だからな。きっと、彼女も可愛い娘なんだろうな」


なんて答えていいのか分からない。だから「そうかもね……」と言うしかなかった。


白石蓮は本当にそんな事言ったのかな?私達の仲を怪しんだ真司さんがカマをかけてるのかも……


疑心暗鬼になり、真司さんのマンションに帰っても不安で一杯だった。とにかく真相が知りたいと思った私は、夕食の買い物をしてくると言って、一人でマンションを出た。


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