『それは、大人の事情。』【完】

珍しく怒りを露わにする白石蓮に、私は戸惑い動揺していた。だって、彼がこんなに怒るなんて想像もしてなかったから。心のどこかで、少しくらいキツい事を言っても彼なら許してくれる。そう思っていたんだ。


自分の身勝手な態度を反省し、白石蓮に謝ろうとしたんだけど、その時にはもう電話は切れていた。


―――あの子に嫌われちゃったかもしれない。


しつこく言い寄られ迷惑だと思っていたのに、この喪失感はなんだろう?


なんとも言えない後味の悪さを感じ、気持ちが沈んでいく。


やっぱ、ちゃんと謝った方がいいよね。でも、今すぐ電話を掛け直しても話を聞いてくれるかどうか……少し落ち着いてからの方がいいかな。


そんな事を考えながら重い足取りでスーパーに入ると、真司さんから電話が掛かってきて、沙織ちゃんのお弁当のおかずも買ってきて欲しいと頼まれた。


『沙織の幼稚園は弁当なんだよ』

「えっ?そうなの?」

『悪いが、沙織が喜びそうなおかずを見繕って買ってきてくれないか』


でも、子供のお弁当なんて作った事がない私は、どんな物がいいのか分からない。だからあれこれ買ってしまい結構な荷物になってしまった。


ずっと一人暮らしだったからこんなに大量の買い物などした事ない。ダイエットにはいいかもって自分を励まし、やっとの思いでマンションの部屋に辿り着く。


買ってきた食材を冷蔵庫に入れ一息付いていると、真司さんがキッチンにやって来て、申し訳なさそうに私を見つめた。


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