柴犬~相澤くんの物語り
 夜、玄関で人の声がする。



 耳を澄ますと、ございますおばさんがなにやらショーコさんに文句を言っているのが聞こえた。

 「お宅、いったいどうゆう躾されてますの? まったくよりによって宅のトオルさんをたぶらかすだなんて。ほんっとに信じられない、あぁ、恐ろしい」


 「はあ、なんのことですか?」
 と、ショーコさん。


それから、ございますおばさんは、おれが高宮さんを誘惑した、知らない間にどこかに出かけると思ってたら、こっちに通ってるとすごい剣幕だ。

 「現に今日、お宅の犬がトオルさんを犬小屋に無理やり押し込んでたのをこの目でハッキリ見ましたのよ。誘惑したんでございますよ」


 「はあ? うちの子、鎖につながれてるのにどうやって誘惑するんですか?」

 ショーコさんが反論する。
 もっともだとおれもうんうん頷く。

「犬小屋に押し込んだとおっしゃられてもお宅のトオルさんでしたっけ?が、のこのこやってこない限り無理じゃないですか! どっちがそそのかしているんだか。それに言っときますけど、うちのこうたは雄です!」

 「んまぁ、宅のトオルさんだって立派な雄です! 雄同士でなんて事なんでしょっ! とにかくトオルさんには近々また海外のドッグショーに出場しなきゃならないのにノミでも移されたらどう責任とるおつもりでございますの? もう二度とトオルさんに近付かないように躾て下さいましね!」
 
「失礼ね、ノミなんていません! それに何度も申し上げてますように、うちの子は動けないんですから、そちらこそ、お宅のトオルさんの首になわでもつけておいてよその庭に勝手に入ってこないようお願いしますね」



 ございますおばさんと、ショーコさんは「フンッ!」って感じで別れた。



 どうしよう高宮さん、ピンチだ……。  
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