柴犬~相澤くんの物語り
 それから一度も振り向かないで一目散に走り続け、なんとか住み家にたどり着いた。

 「ハァハァ……あいざわ君、だ、だいじょうぶですか?」

 息を切らしながら高宮さんが尋ねる。


「背中が痛いけど骨は折れてないみたいだし平気だ。それよりこれ」

 ずっとくわえて走っていた肉を彼に見せた。


「転んでもただじゃ起きねえぜ。今夜の夕食だ。ごちそうだろ?」


「……こんなはずじゃなかったのに……私はただ君と楽しく暮らせたら…それだけだったのに……すみません…君にこんな辛い思いをさせてしまって……」


 目の前の肉を見て高宮さんが涙をこぼした。
おれは泣いている彼を、まじまじと見つめてからにっこり笑った。


 「楽しいよおれ。おれ、高宮さんがいてくれたらそれでいいよ」



パッと顔を上げた彼が

「相澤くぅん、だいすきです」

 突然スリスリとすり寄ってきた。



さっき泣いてたのに現金なやつ。

でもなんだか嬉しくておれもスリスリしてやった。
それから仲良く分け合って肉を食べ、やっぱり高宮さんのお腹にひっついて丸くなって眠った……。

< 40 / 84 >

この作品をシェア

pagetop