柴犬~相澤くんの物語り
 朝、目が覚めると、高宮さんは、びしょぬれだったけど、ちゃんと息してた。


ひとまず安心だ。


 ごそごそ起きだし、水飲み場のところから水を一口、口に含むと彼の鼻先に近付ける。

高宮さんはおれの口をペロペロ舐めて水を飲んだ。

そのあともう一度彼のお腹に潜り込み眠った。
 



 「えっ、相澤君?」

 おれに呼びかける高宮さんの声で目が覚める。


 「あっ! 高宮さん、気がついた?」

 おれはガバッと跳ね起きた。

 「あ、相澤君? どうしてここに?」

 おれは立ち上がると、ぶるぶる体を震わせ、盛大に水しぶきを飛ばした。

 「あんたが家に帰ってないから、捜し回ってたんだ」



「どうしてそんな事……私の事、嫌いになったんじゃないんですか?」

 ぐったりしたまま小さな声で呟く高宮さんの横にうつむいて、ペタッと座り込む。


 「ごめん。あん時はどうかしてた。高宮さんがいなくなったら、淋しくて死にそうだった。やっぱりずっと一緒にいたい」

 それから、ちらっと高宮さんを見た。

 「怒ってる? おれ、ひどいこと言ったよな」



「私が…君を嫌う訳ない…もう、会えないと思ってた……もう、何もかもどうなってもいいと…思ってた……だから…また君に会えて……すごく嬉しい…」

 「よかった…おれもすごく嬉しい」
  


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