柴犬~相澤くんの物語り
 おれは地面に放り出されゴロゴロ転がった。やっと起き上がりハアハア息を切らしながら

 「高宮さん、すごい! 見なおした」

 と、笑った。


 「そんな……君がいてくれなかったら、私だけじゃとても…」

 「大丈夫か? 痛くない?」

 あいつに咬まれた傷を舐めた。


 「あぁ、そんな事しなくても大丈夫ですよ。それより君こそ傷だらけじゃないですか」

 彼がおれの鼻先に顔をすり寄せた。


 「あいつ、やっつけてくれてうれしい!」

 おれも高宮さんの鼻先に顔をすりよせながら笑う。

 「食べ物も今回は無事だったしな」


 「フフ…私は君が無事なのが一番嬉しいですね」

 おれたちは向かい合って守り抜いた食料を食べた。

 「私は今まで当たり前のように主人から与えられた物を食べてました。でも、外では肉のかけら一つ口にするのも闘いなんですね。彼はあの後、食料にありつけるんでしょうか。彼も生きていかなければならないのに……」

 高宮さんの言葉にちょっとしんみりしてしまった。

 あいつにも家族がいて、必死に食料を探してるのかもしれない。

 あのクリスマスの夜、家で腹をすかせて待っている子犬たちにおれから奪った肉を分け与えているあいつの姿をふと思い浮べた。
あの時は、とても悔しかったけど、少し許せる気がした。

でもおれたちも生きていかなきゃならないんだ……

ごめんな…

小さくつぶやいた。
 
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