柴犬~相澤くんの物語り
 六日目の朝。


 おれはもう騒がなかったし泣かなかった。
ただ静かに目を閉じて高宮さんに寄り添う。
明日でおれたちの命は消えてしまうけど……


 「最後まで高宮さんと一緒だから、もういいかな……」

 つぶやいて小さく笑った。


 「相澤君……」

 彼がしばらく言い淀んだ後

 「今から私の言う事をよく聞いて下さい」

 おれの目をじっと見つめ話し始めた。

 「明日、職員が鍵を開けて入って来たら私が飛び掛かかって押さえ付けますからその隙に出来るだけ遠くに逃げなさい」


 「いやだ!」

 驚いて、おれはかぶりを振った。


 「もう、それしか助かる方法はないんです。相澤君、お願いですから私の言う通りにして下さい」

 「いやだ!」

 「あのね、何も君だけ助けるなんて言ってませんよ……君が逃げるのを確認したら私もすぐ後を追って行きますから……」

 彼が微笑む。


 「…嘘つくな。無理だよ、二匹とも逃げ出すなんて……」

 弱々しい声で続ける。

 「あんた、おれが捕まった時、逃げなかった。逃げようと思えば逃げられたのにおれを置いていかなかった。言ったろ? 何があってもおれは高宮さんと一緒にいる。最後の最後までおれたちは一緒にいるんだ」

 そう言って笑った。

 もう迷いはなかった……。


 「君は……バカですね…」

 ため息混じりに高宮さんが哀しそうな顔で笑った……。


 ただ高宮さんの体温だけを感じ、眠るように横たわっていた。
悲しみの感情さえなくなり静かな時間が流れる。
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