柴犬~相澤くんの物語り
「こうた、どうしたの? 家に帰れるのよ?」

 ショーコさんの声がする。


 このまま帰ったら高宮さんは?



 「おれ、あんたと一緒に帰るんだ」

 「相澤君……一緒に帰るのは無理なんです。飼い主が迎えに来ない限りここからは出られないんです。でも良かった、君が家に帰れてすごく嬉しいです」



 うそ……


 おれの顔から血の気が引いた。


 「なにやってんだ、でてこい」

 職員がおれの体に触れた途端、

 「いやだ!  高宮さんと離れるなんて
絶対にいやだ!」

 飛び跳ねると大声で叫び、彼の前足にかぶりついた。
驚いた職員がおれの胴を掴み引き離そうとする。
高宮さんごと、ずるずる引きずられる。

 「帰りたくないのか? 外に出られるんだぞ?」

 困惑しながらも男は、すごい力でおれを高宮さんから離そうと引っ張る。


 高宮さんが、

 「何やってるんですか、早く帰りなさい!」

 おれを振り払おうと前足を振り回した。
それでもおれは意地でも離れない……。

 「君、いい加減にして下さい! やっと別れられてせいせいすると思ってるのに」

 彼が見下ろし冷たく言う。


 高宮さんの言葉に胸がズキッと痛んだ。

 だけどこんなの本心じゃない。
おれを家に帰すための嘘に決まってる。


おれは、うーうー唸り、目に涙をいっぱいためながら、彼の足にかじりついていた。


 「まだわからないんですか! 私は……」

 そう言ったきり彼は絶句した。
 
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