グーグーダイエット
「おっつかれ! よく此処まで来た」
 スーさんがタオルでさと子の濡れた髪を拭くと、次に飲み物を手渡した。さと子が飲んでいる間に、説明を始める。
「さて、此処まで来れたことは素直に祝福しよう。おめでとうな。体調はそんな悪く無さそうだし、もう半分も行くぞ。出来るな?」
 此処まで来たら、どうせなら完走したい。さと子の目が燃え上がる。空になった容器をスーさんに返すと、「はい!」と元気のいい返事をする。
「よく言った! んじゃ行くぞ、ハンバーグ!!」
「分かった! 最後まで頑張ろうね!!」
 2人に頷くと、走りを再開した。もう体の節々が悲鳴を上げている。翌日休みなので、その間に体を休めとかなければ。となると、明日は野菜にすべきか。明日のメニューを考えて痛みのことを少しでも誤魔化しながら、さと子は走り続けた。今回は。スーさんも歩かずにさと子の歩幅に合わせて走ってくれている。ハンちゃんも、一度も愚痴を言わずにさと子を元気づけてくれていた。目指すは、サラダのいる7キロ半。俯くばかりの視線を前に向け、さと子は走り続けた。
「見ろ、あそこ、児童会館が見えてきたぞ!」
 スーさんが指をさす。形はまだ小さいが、確かに遠くに児童会館が見える。あそこにサラダが待っていると言うわけか。彼の体調も気になるさと子は、絶対早く行かなければと、歩幅が大きくなった。突然スピードの上がったさと子に、肉料理2人は驚いているようだったが、すぐにその歩幅に合わせて走った。
 児童会館に向かうと、さと子達はサラダを探した。すぐには見当たらなかったので、神様の元へ行ったのだろうかとさと子が心配していると、肩を叩かれた。
「お疲れ様です」
「良かった、大丈夫? 体調は」
「はい。さと子さんは……?」
「私は全然平気。でも、走れる?」
「はい! これでも、サラダはビタミン豊富ですから」
 やっとサラダの笑顔を見たさと子も、嬉しくてつられて笑顔になった。
「それじゃあみんなで行こう!」
 さと子が手を上げると、ハンちゃんやサラダも手を上げた。クライマックスに向けて盛り上がってる面々と対照的に、スーさんが心配そうな顔をする。
「大丈夫か? 息、上がりすぎかもしれねーぞ」
「え? そりゃあそうでしょ、此処までめっちゃ走って来たんだから」
「一度休憩取らなくて良いのか?」
「大丈夫だよ。それに、気持ちが高ぶってる間に走っとかないとやる気無くなっちゃうもん!」
「そうか。此処まで来たら頑張りたいもんな。じゃあ行くぞ!」
「おーっ!!」
 改めて全員が手を上げると、神様の元へと走りをスタートした。

 距離的には8キロ半の時、さと子の体に異変が起きた。もともと上がっていた呼吸が、どんどん速くなっていたのだ。そこから呼吸が乱れると、その場にしゃがみこんだ。
「サトちゃん!」
「さと子……さん!」
 ハンちゃんとサラダがしゃがんだ。スーさんは、「やっぱりか……」と頭に手を当てた。さと子は呼吸をするので精一杯になっている。
「すまねェ。これは俺の判断ミスだ。これ以上はちょっと無理かもな」
「そんなっ!」
 ハンちゃんが立ち上がると、スーさんに不信の目を向ける。
「どうして言ってくれなかったの? サトちゃんのこと、気付いてたんでしょ?」
「気持ちを優先させただけだよ」
 言いあう2人を何とか止めてやりたかったが、息が乱れて話すこともままならない。そんな時、サラダがさと子の肩に手を回した。
「立てる?」
 何とか頷き、さと子はサラダの力で立ち上がる。言い合っていた2人が、思わずサラダの方を見た。
「どうするつもりだ」
「走って完走出来なくっても、自分の力で歩けなくっても、とりあえずゴールだけでもさせてあげたくって」
 サラダはさと子の息遣いを気にかけながら、ゆっくりと進み始める。肉料理2人が目を見合わせると、途端に表情を和らげ、ハンちゃんは空いているさと子の左側に移動して応援し、スーさんはさと子の後ろで黙って歩き始めた。

 結局、残り2キロでゴールまでの時間を大幅に食ってしまった。途中から呼吸が安定してきたものの、また走って過呼吸になられても困る。食べ物男子達に止められ、さと子はサラダの肩を借りながら歩いた。ゴール地点に神様が立っており、神様もさと子達に気付くとおーいと手を振った。神様も元へ行き、ゴールすると、さと子達は神様も混じって抱き合って喜んだ。苦しんだがゆえに、その感動は大きい。さと子は涙を流し、皆に頭を下げた。
「今日は本当に有難う。ハンちゃんには早い段階からずっと走ってもらって、勇気づけてもらったし、スーさんには心配してもらったのに、無理言って走らせてもらっちゃって。サラダには、ずっと肩貸してもらっちゃったね。重たかったでしょ?」
 サラダはブンブン首を振った。
「有難う。神様も、待ってる間退屈だったでしょう? すみません、お時間かけちゃって」
「待つ時間は何かあったのではと心配にもなるし、案外忙しいもんじゃよ、思考がの」
「本当に有難う御座います。皆様、誰1人欠けても私は此処まで走りきることが出来ませんでした。本当に、有難う!」
「ううん、サトちゃんごめんね。体調に気付かず、止めないで一緒に走っちゃったりして。僕は、ステーキより酷いと思う」
「まぁ、知ってて止めない俺も悪いな」
「ううん! 素人が、運動出来る人のアドバイスを聞かなかったことが悪いの。それに、どんな形でも、完走出来て嬉しかったよ」
 皆が喜ぶ中、サラダは笑いながらポケットに入れていた眼鏡をかけた。それを見たスーさんが、「あっ!」と声を出す。
「おめー、そうだよ! 眼鏡かけてなかったんだ!!」
「え、はい。そうですよ?」
「本当だ。サラダ、眼鏡かけて無いと誰か分からなかったよ。イメージ違って」
 肉料理2人にツッコまれ、サラダは、「成程~」と頷いた。何時もはもう少し早く気付いてもらえるのに、通りで今日は忘れられるわけだ。眼鏡が無いだけで影が薄くなる自分にもガッカリだが。
「成程~……じゃ、ねぇよ! 眼鏡あるなら何でしねーんだよ。視界だってぼやけてたろ?」
 そう言えば、一度極端に視界がぼやけてたな。それは貧血じゃ無くて、眼鏡をかけて無かったからなのか。サラダが深く頷く。
「でも、眼鏡かけてもかけて無くても、サラダはサラダだもんね。そう言う、飾らないサラダ、私素敵だと思うよ」
 さと子の言葉に、サラダの胸がジーンと熱くなった。対してスーさんの視線が鋭い。
「んだ? 飾りモンの俺が悪いみたいだな」
「ちょっと派手すぎだよねー」
「んだとこの~!」
「おお、やれやれぃ!!」
 さと子がスーさんに追い回されている間に、ハンちゃんがサラダに近寄った。
「良かったね、サラダ。みんなに気付いてもらえて。気付いてもらえるまで言わないって目標、叶ったね」
「うん。有難うハンバーグ」
 2人は笑いあい、馬鹿をやっている3人の様子を見ていた。
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