不倫のルール
ゲンさんが、マスターにコーヒーを二つ注文した。

ゲンさんの左手の薬指に、指輪が光っていた。ゲンさんが結婚指輪を嵌めているのを、初めて見た。

「指輪……」小さく呟いたが、ゲンさんに聞こえたようだ。

「厨房に入る時は外さなきゃいけないから、なくさないように、ずっと嵌めてなかったんだ。でも、秀子さんに『もう厨房に入る事もないから、嵌めなさい』て言われた」

苦笑しながら言ったゲンさん。

そうか……調理担当は、指輪をしてちゃダメだった。だからゲンさんは、指輪を嵌めていなかったんだ。それなのに、私は……

しばらくして目の前に置かれたコーヒーからは、一瞬今の状況を忘れるほど、よい香りがした。

ゆっくり香りを吸い込み、カップに口をつける。

「おいしい……」

思わず呟くと、「だろう?」とゲンさんが得意気に笑った。

漂っていた気まずい雰囲気が緩み、スルーしようかと思っていた事を言ってしまった。

「坊主……」

ハッ!とゲンさんが、右手を頭にやる。

こうやって顔を合わせて、何を話すつもりなのか、自分でもわからなかった。

文句が言いたいのか、ゲンさんの気持ちが知りたいのか……

でも、今日のゲンさんの姿を見た時、もういいや!って思ってしまった。

それは、罰?反省のシルシ?

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