不倫のルール
その声は、少し震えているようにも聞こえた。でも、ごめんなさい。私も、ここまでが限界なんです。

「コーヒー、ごちそうさまでした」

それだけを言って、私は前を見たまま店を出た。

ギュッ!と口を結んだまま、自分のアパートを目指した。

鍵を開けて、一歩部屋に入ると、もう抑えられなかった。涙が、後から後から溢れてくる。嗚咽しながら私は、玄関先で泣き崩れた。

もう、会えない……

きっと、ゲンさんの調理をする姿を見る事は、もうないのだろう……

ゲンさんの楽しそうな横顔を思い出しながら、私は、涙を流し続けた──

ゲンさんに宣言した通り、カフェのアルバイトは、短大を卒業する三ヶ月前まで続けた。

時給もよかったし、お店の雰囲気も働いているスタッフの雰囲気もよかったし……せっかく仕事を覚えたんだから、無駄にもしたくなかったし。

でも、一番の理由は……ゲンさんの“これから”が心配だった。

ゲンさんと喫茶店で話をしてから、三ヶ月くらい過ぎた頃。

「新庄さんプロデュースのカフェですか?」

「そうなの!外装に内装、もちろんメニューや、スタッフの選定まで!全部ゲンさんが関わってるんだって!」

そう祥子さんが教えてくれた。あれから、ゲンさんには会っていない。私がお休みの時に、カフェには顔を出したようだけど。

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