不倫のルール
私を愛さないオトコ
短大を卒業して、母と暮らしていた町に戻り、就職した。

経理課に配属され、黒崎経理課長と出会った。

私の一回り、十二才年上の黒崎課長。三十代前半での課長職は、うちの会社ではなかなかのスピード出世だと後で知った。

“やり手”という尖った雰囲気ではなく、物腰柔らかで、上司にも部下にも気遣いができる。

スラッと背が高くて、スーツがよく似合う。ほんの少しだけ垂れた目は、笑うと細くなり、写真の父を思い出した。

既婚者だったが、カッコよくて優しい黒崎課長は、女子社員から人気があった。

私が入社した年に、黒崎課長は“お父さん”になった。結婚をしてから四年目に、ようやく授かった赤ちゃんだった。

奥さんの産婦人科への検診も、よく付き添っていた。生まれる前から、イクメンになる黒崎課長の姿が想像できた。

社内で、みんなにからかわれても、嬉しそうに目を細くして笑うだけだった。

赤ちゃんが生まれた時、経理課の先輩と二人、病院まで経理課からのお祝いを届けた。

お化粧も何もしていないのに、黒崎課長の奥さんは、とてもきれいな方だった。

赤ちゃんは女の子で、とても小さくて、可愛らしくて。いくら見ていても飽きない気がした。

赤ちゃんをそっと抱いている黒崎課長は、これまで見た中で、一番優しい笑顔をしていた。

お父さんも私の事を、こんな風に大切に抱っこしてくれたのかな……

そう思いながら、そっと黒崎課長を見つめた。

< 19 / 122 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop