不倫のルール
「おはようございます!黒崎課長。今日の陽菜(ひな)ちゃんの様子は、どうでした?」

いつ頃からか朝の挨拶の後、黒崎課長の娘さんの事を訊くのが、私の日課のようになっていた。

「笑ったよ!」「何か一人でしゃべってるんだよ」「ガーゼをニギニギしてた!」

そんな娘の小さな行動を、嬉しそうに話してくれる黒崎課長。写メも、よく見せていただいた。

陽菜ちゃんの事をきっかけに、黒崎課長と話す事が増えた。嬉しそうに、楽しそうに話す黒崎課長を見ながら、無意識に父の姿を重ねていた。

私も、こんな風にお父さんに愛されていたはずだ……

そう思うと、少しだけ心が温かくなった。

私の事も、黒崎課長に少しずつ話していた。三才の時、父を事故で亡くした事も。

写真でしか知らない父が、黒崎課長になんとなく似ている事も話したと思う。

そうしてまた、知らず知らずのうちに……私は、黒崎課長への想いを、少しずつ重ねていた。


ゲンさんを好きになった事は、後悔していない。

でも……大切な人がいる人の事は、絶対に好きにならない!そう決めていた。

自分が傷付くだけでなく、結局、周りの人も傷付けてしまう。

誰かを傷付けて、好きという気持ちを通しても、決して心は満たされない……

そう、感じたから──

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