不倫のルール
低く響く声が、私の耳に届いた。

レジカウンターを正面にして、右手が客席のあるホール、左手にはお手洗いがある。

その声は左手から聞こえたから、そちらを見る。

美冬も、そちらを見た。

「柴田さん!」

『柴田さん』と美冬が呼んだ人は、美冬の傍まで来て足を止めた。

背が高い!一八〇センチ近くある、黒崎さんより高そう。ジーンズを履いた足が、スラリと長い。サラッとした黒髪に、整った顔立ち。まるでモデルさんのようだ。

「お疲れ様です!って、今日は休みか」

ニコッと笑いながら言った美冬。

「飲みに来たの?」柴田さんの問いに、美冬が頷いた。

「はい。でも……」美冬がそう言った時、店員さんが戻ってきた。

「お客様、お席が空くまで、一時間くらいかかるかもしれません」

美冬と私は、思わず溜め息をついた。

『二度ある事は……』の方でした……たくさんお店はあるのに、こういう時は、もうどのお店にも入れないような気がしてしまう。

「二人だよね?よかったら、俺達と飲む?テーブルは、ちょっと狭いけど……」

明らかに落ち込んだ私達を見かねたのか、柴田さんがそう声をかけてきた。

「えっ!?いいんですか!?」

美冬のすがりつきそうな勢いに、柴田さんは、若干退きながら頷いた。

「四人席に、俺と友達の二人で飲んでるから、よかったら……」

美冬が、チラッと私を見る。もう、歩きたくないんだよね、わかってる。私は、美冬の目を見ながら小さく頷いた。

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