不倫のルール
その時、不意に思った。

──柴田さんに、もっと近付きたい、触れてみたい……と。

周りには、たくさんの人がいる。誰に見られてしまうか、わからない。

そんな当然の事が、なぜかその時は全然頭になくって。

考えるより先に、身体が動いていた──

気が付けば、柴田さんの唇に自分の唇を重ねていた。

ただ唇の柔らかさと、柴田さんの体温を感じていた……

冷たい秋の風が、私と柴田さんのわずかな隙間を、ピューッと吹き抜けていった。

あっ!ヤバ……慌てて右手を口元に持っていく。

「クチュッ!」

柴田さんが、ゆっくりと目を開ける。焦っているうちに、間近で柴田さんと目が合ってしまった。

「繭ちゃん?」口調が緩やかで、まだ寝ぼけているようだ。

私がかけたパーカーに気付く。

「これ、かけてくれたんだ。ありがとう」

柴田さんがニッコリと微笑んだ。

その、力の抜けたような無防備な微笑みは、反則です。

身体と顔が、ボッ!と熱くなる。私は、フルフルと首を振った。

「う~ん……よく寝た」

柴田さんは身体を起こすと、おもいっきり伸びをした。

「繭ちゃん、ありがとう。足、痺れなかった?」

柴田さんに訊かれるけど、私はもう、自分の行動に動揺してしまって、うまく言葉が出てこない。

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