不倫のルール
砂浜を歩いてみたが海風はまだ冷たく、すぐに柴田さんの車に戻った。

靴に付いた砂を落として、助手席に乗る。

「やっぱり、風はまだ冷たいですね」

「……」

運転席の柴田さんに話しかけたが、反応がない。

「柴田さん!」顔を覗きこむようにして、もう一度声をかけた。

「……ん?何?」ようやく柴田さんが私を見た。

昨日から、柴田さんの様子がおかしかった。

今日会ってみて、やっぱりいつもの柴田さんとは違うと思った。なんとなく元気がないし、何かを、考えこんでいるように見える時もある。

「柴田さん、どうかしました?」

柴田さんの顔を見ながら、小首を傾げた。

「いや!……うん……実は、繭ちゃんに、話さなきゃいけない事がある」

一度目を逸らした柴田さんだったが、すぐに視線を戻し、私を見つめながら言った。

……なんとなく、悪い予感しかしなくて、黙って頷いた。

「四月、隣の県の支社に転勤になる」

「えっ!?転勤……?」

全く予想していない言葉だった。

隣県に本社のある企業と新たに大きな取引が始まる。柴田さんが、こちらの支社に何度も通い、小さな取引から始めたのだ。担当は柴田さんがいいと、本社の方からも言われているそうだ。

「すごいですね、柴田さん!」

満面の笑みを浮かべて言った。美冬が「うちのエース」て言ってたもんね。……でも、私の心の中が、少しずつ灰色の雲に覆われていく……

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