初恋フォルティッシモ
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麻妃先輩は、本当にズルイと思う。
手を伸ばせば届く距離にちゃんといるのに、いざ手を伸ばすとスルリとすり抜けてまた離れていってしまう。
そして、必死に俺に見えないようにして隠しているその心。
だけどその壁を突き破った時、麻妃先輩は泣いていた、気がして。
「…麻妃先輩…」
名前を呼んで、抱きしめた。
………夢の中で。
「…──くん、」
「……」
「──くん、三島くん」
「…?」
…良い夢は、覚めるのが早いと思う。
麻妃先輩の細くて柔らかい体を抱きしめていたのに、その途中であっさり誰かに起こされた。
「……んん、」
しかも、日差しが当たって眩しいし。
若干頭も痛い。
でも何故かふいに、今ここにある空間がいつもと違う気がして。
「起きて。もうちょっとでチェックアウトだよー」
「…!」
朝。
よくわからないけれど、ここはどこかのホテルで。
そして目の前には、何故か麻妃先輩がいた。