スローシンクロ 〜恋するカメラ女子〜
二月の寒空の下、携帯電話でかけ慣れた番号を呼び出す。

すれ違うサラリーマンが手にしているスポーツ新聞の一面には『一條岳 熱愛』の文字が踊っていた。
呼び出し音を聞きながら、つい舌打ちをしてしまう。



『はい』

「お前何したの?あいつに」



電話が繋がると同時に俺は切り出した。


『何って……ニュースで観ただろ。あの通りだよ』


何の用件かわかっていたのだろう。岳は面倒くさそうに言った。
朝から取材が殺到しているのかもしれない。


「それだけ?」

『は?』

「他には?」

『なんだよ、他って。そんな暇無かったよ、すぐ走って逃げられちゃったんだから』


週刊誌には『某日』となっていたが、ヒナの様子が明らかにおかしかった日があった。
岳がニット帽を取りに来たというあの日だ。
すがりつくように俺のコートを握りしめるヒナを思い出し、無意識に唇を噛んでいた。


『しょうがないだろ。記者に尾けられてるなんて知らなかったんだよ』


本来ならばプライベートを世間に晒された岳も被害者のはずだ。
わかっているのに、むしゃくしゃした気分は収まらなかった。
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