トンネルを抜けるまで

 来た。この、薄暗い上の世界。と言うことは、此処に彼がいるのかな。辺りを見渡す。
「どうして……?」
 リックが幽霊でも見る様な目で駆け寄ってきた。リックも幽霊なんだけどね。
 あ、そう言えば病気だったって言って無かったっけ?
「病気? 聞いて無い……セルパン、病気だったの?」
 そうよ。体中線だらけで、此処にマスクとかして、あっちの世界では、もー喋るのも大変だったの。黙っててごめんね。
「ううん。でも、びっくりした。もうしばらく会えないって思ってたから……」
 リックは両手を目に当てて、声を出して泣いた。やだ可愛い、子供っぽいところもあるのね。普段は我慢してるんだ、この子。
 知らない種族ばかりで、ずっと一人ぼっちだったんだもんね。いいよ、もっと泣きなさい。これからは一生一人ぼっちになんてさせないから。
「一生……?」
 うん! 私も蛇王様に頼もうと思ってね、か・ん・し・しゃ。
「かんし、しゃ」
 とりあえずは行きましょ、下へ。
「う、うん」
 リックと手をつないで、私達は蛇王様の元へと向かった。

 下へ降りると、今度はバイキン達が道を開けていた。蛇王様に色々言われたみたいね。真直ぐ進んでいき、奥の荘厳で大きな扉の前に立つと、ガタイの良い2匹の門番バイキンが、扉を押し開いてくれた。
「帰ってきたか」
 はい。それでね、早速頼みがあるんです。私も、彼と同じ監視者になることは出来ないかしら?
「何故だ?」
 彼は、一生このままなのでしょう? だとしたら寂しいじゃない、一人くらい誰かいないと。それに、私が一度完全に死んだ以上、私も霊のはしくれでしょ? なる権利はあるわよね。
「そうだな。未だかつて聞いたことは無いが、一度人間になった以上、その権利はある。だが、簡単に監視者にさせるわけにはいかないな」
「何する気なの」
「簡単さ。リックは自らの力で此処まで来たんだ。期間は問わん。自分の力で、此処でたくさんの労働をしろ。やれるか?」
 あったりまえでしょう? 14歳に出来て私に出来ないわけがないじゃない。
「セルパンじゃ少なくとも5年は……」
 1年。いや、半年あればいけるわ。5歳のリックが才能を発揮したそれらを、完璧にこなしてみせる。
「無茶だよ」
「言うじゃないか、流石は私の娘だ。わかった。半年で出来なければ、監視者にはならず、お前は私と共にここの僕(しもべ)達を統括する。わかったな」
 ええ、どんと来いよ。
「どうしてそうなるの……」
 リックは頭を抱えてしゃがみこんだ。私もしゃがんで、大丈夫よとリックの背中を撫でた。
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