〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。
鍵をもらっても勝手に入る事はしないでおこうと思った。
何もかも、自分のモノみたいな感覚になりたくない。
新鮮さは気持ちで左右する。
「京、あのさ…」
陽人が髪を撫でた。
「話しておきたい事がある」
「うん」
「今日、あ、いや、今晩、女の人が訪ねて来たと思う。来ただろ?」
「うん」
…やっぱりか。
「でも階を間違えたって言ってたけど?…綺麗な人だったよ?」
「ああ。誤解しないで聞いて欲しい。
理解してもらわないと言い訳にしか聞こえないからよく聞いてくれ」
「…うん」
陽人の…彼女だった人かな。まだ陽人の事が好きなんだ。
だから訪ねてきたんだ。…だよね。きっと、そんな話。
「待て。先に勝手に頭の中で想像を膨らませるな。今ある妄想はまず綺麗に無しにしてくれ」
私の事、なんでも解っちゃうのね。
「うん、解った」
「いいか?その綺麗な女の人、そいつは男だ」
そんな…見え透いた嘘。
私なんかよりずっと綺麗だったよ。モデルみたいだった。
「大学からの腐れ縁だ」
もう随分長い付き合いなんだね。
「最初は男だった。卒業するまでは綺麗な顔の男だったんだ。
それがある日、女装して現れたんだ。びっくりしたよ。
綺麗にメイクしてフワリとしたワンピースを着てな。誰かと思ったよ。
よく見たら見覚えのある顔だった。
俺だ俺って言うし。
アイツは山下康介っていう正真正銘の男だ。今だって男のままだ。
女装家というやつだな」