〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。

・全ては後悔の無いために


急いで来たが待たせてしまっただろうか。
21時は目安だと聞いているが。


…ここか。ふぅ。
よし、入るか。

「いらっしゃいませ」

明かりの弱い中、どこに居るだろうなんて探す心配も無かった。
捜し求める相手はカウンターに居た。

写真とは違った。眼鏡はしていなかった。
でも間違いなかった。
敢えて情報が無くても、ただ一言、いい男だ、と聞いているだけで解ったと思う。
それ程他の人とは漂うモノが違った。

イメージは違った。
恐らく、写真の…仕事中の雰囲気とは真逆なのだろう。
今ここに居るのは、男の顔の課長だ。

立ち尽くす俺に声が聞こえた。

「失礼ですが吉澤さんでしょうか?」

気が付けばいつの間にかその人は傍に立っていた。

「あ、はい。すみません。
確認をさせて頂いてましたら声を掛けそびれてしまいました。
…澤村さん、ですよね?」

「はい、如何にも。
どうぞ、隣に掛けてください」

程よい高さのスツールは近すぎる事も無く、良い距離感で並んでいた。
言われたからではない、隣に腰掛けた。

「では、失礼します」

グラスを軽く持ち上げた。

「飲んではいますが見掛けだけです。
アルコールが入っていないモノを頂いています」

どんな話の展開になるか解らない。
場所が場所でも酒を飲んで待っている訳にはいかなかった。

「では、私も。
ノンアルコールで、何かお願いします」

「…かしこまりました」

一時静かな時間が流れた。
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