〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。
手を動かしているようで思うようにならない。
ボールペンが落ちる。
やっと摘んでのせたクリップも、手の中からパラパラと落ちた。
両手を握られた。
「パソコンは俺がシャットダウンする。
着替えて来い。無理ならそのままコートを羽織れ。
京、聞こえてるか?…京」
呆然と立ち尽くしていた。
しっかりしろとは言えない。
「京。…抱きしめるけどいいか?」
返事は無い。
「京…」
……。
「…課長…。陽人が…、陽人が終わりに…し」
「京…何も言わなくていい」
「澤村さん、私…終わりだって…陽人が終わりにしようって…どうして」
「喋るな。…無理に話そうとしなくていいから」
迷った。…勢いで抱きしめた。
何も心が無い相手を慰めるようには抱けない。
どうした、何があった、とは聞けない。
こうなる事を俺は知っていた。
少なくとも俺には感情がある。
複雑な思いのまま抱きしめた。弱みに付け込むみたいで嫌だった。
でも、せめて、目の前で泣いている京を抱きしめてやりたかった。
このまま帰って京は大丈夫なのか。
「京、歩けるか?
取り敢えず、ロッカーに荷物を取りに行くぞ。…さあ」
抱えるようにして京を連れ出した。
誰もいないとはいえ、女子のロッカールームに入るのは憚られた。
「待ってるから、鞄とコート、取って来れるか?」
京はロッカールームに入った。
ガチャガチャと鍵の音がした。
ん?
出て来る気配がしない。
「京?入るぞ?」