〇年後、微笑っていられるなら〇〇と。

廊下からの明かりのみの中、仕度していたのか。
薄暗闇の中、部屋の奥で京は倒れていた。

「京?京?…京」

涙で濡れた冷たい頬を触ってみた。
貧血か…強いショックからか…。なんて事だ…。こんなに…。


どうする。
日中ならともかく、このままここで寝かす訳にはいかない。

「京…連れて帰るからな」

声を掛けた。
コートを着せ、荷物を肩に掛け、京を抱き上げ運んだ。


遅い時間で良かった。誰にも会わなかった。
駐車場の俺の車に乗せた。

完全に気を失っているのか…。
シートを倒し寝かせた。ぐったりしたままだ。
形ばかりのシートベルトをした。

「取り敢えず帰ろうな。京」

明日は休みだ。なんとかなるだろう。

言われたんだよな、京。

エンジンをかけ、会社を後にした。


俺の部屋に運びベッドに寝かせた。
閉じられた瞼。涙は拭っても湧き上がってすぐに溢れ出してくる。
心が泣いている。
ショック。深い哀しみ…。自分を責める気持ちもか…。
なんて言ったんだろうか。
きっとまだ何が何だか訳が解らないままだろう。突然降って湧いた別れだ。

あぁ、何も無ければ抱きしめる事もできるのに。
彼の気持ちが解りすぎる今は、無闇にただ抱きしめる事も出来ない。

…京。
髪を撫でてみる。
柔らかい髪なんだな。
近くに居ても何一つ知らない。
髪に触れた事なんて無かった。

抱き上げた京の身体は軽かった。
意識の無い人間は重さも増すものだろうが、軽かった。

女性は太ったとかよく話をするようだが、実態はそうでも無いという事だ。
気にし過ぎだ。京は痩せている。
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