可愛い弟の為に
9.クリア
「失礼します」

父さんはデスクに座って書類に何やら記入していた。

「淡路さんの件、どういう事ですか?」

父さんの目の前に行き、聞いた。

「…退院出来ると判断したからそう指示しただけ」

父さんは手を止めて僕を見つめた。

「どう見ても無理です!」

思わず、声を荒げてしまった。
新人秘書がビクッとしている。

「透が面倒を見ればよい、なんて…。
四六時中監視なんて無理でしょう?
透なんて尚更いつ呼び出しがあるかわからないのに」

まだ、完全には脱水状態を抜けていない。
多少の数値改善でも、不安要素がたくさんある。
病院で安静が一番ベストだ。

「…まあ、明日、明後日は俺も、透も、至もいる状態だ。
何かあればすぐには対応できる」

「…流産だけは防ぎようがありませんよ」

明日も明後日も…ということは。
明後日は例のあれか!!

「…自分が一番欲しているものが目の前にあるというのに、危険にさせるなどあり得ない」

踵を返して部屋を出ようとすると

「明日、夜にウチに来てくれ。
透がさっき、2人で来ると言っていた」

のんきな事を…。
僕は大きくため息をついて

「本当はそんな事なんて、いつでもいいじゃないですか。
なぜ、形式ばかりにこだわるのですか?
それで万が一があれば…亡くなったハルちゃんのお母さんにも顔向けできませんよ。
妹さんも透の大学の医学部です。無理をさせたとを聞いたらどう思うでしょうね」

僕なら髪の毛逆立ちの激怒だな。
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