可愛い弟の為に
その後、透からも連絡があり、翌日桃ちゃんと共に実家へ向かった。

家に着いたときはもう、それはそれは。
ハルちゃんのつわりがピークに達していて嘔吐の嵐。
父さんも母さんも大慌てで、そういうのに小児科では慣れっこの透だけは淡々と処理をしていた。

ほらね、やっぱり早かったでしょ。
父さん、一度目の前でしっかりと見ておいたほうがいいよ。

「至、ちょっと」

ハルちゃんが透や桃ちゃんに介抱されている間に僕は父さんに呼ばれた。

「これに記入して」

そう言って差し出されたのは透とハルちゃんの婚姻届。
ああ、いよいよなんだ、と思う。
もう先に父さんは証人欄に記入していた。

僕は深呼吸をして記入した。
今まで何度か病院関係者のを書いたことがあるけれど、自分の弟のは特別だ。
特別、と思えるくらいの出来事を目の前で見てしまった。
透の人生の中で大きな分岐点を何度も見た、僕は目撃者だ。

記入し終えると父さんは透にそれを渡す。
透は嬉しそうにそれを受け取った。

良かったな、透。
ようやくお前の想いが届いたのかもしれんな。

後で透から聞いたが、母さんもハルちゃんに謝罪したようだ。
良かった、バラバラになっていたこの家も透とハルちゃんの結婚で上手くまとまりそうだな。

後は…。
あの連中か。


家に帰ってから僕は電話を掛けた。

「至さん、どうしたの?」

「琥珀、久しぶりだな」

電話の相手は土師 琥珀。
僕より1歳年下の武伯父さんの娘。

「明日、透が奥さんを連れて行くよ」

「…奥さん?もう結婚しているの?」

「入籍は今日、しているはずだよ」

琥珀はふーん、と言って黙り込んだ。

「まあ、彼女のお腹には赤ちゃんもいてね。
つわりと脱水で入院していたんだけど今日、退院したんだ」

「…そんな状況で明日、大丈夫なの?」

「うん、まず無理だね。
1時間も座っていられるかどうか」

琥珀は大きくため息をついた。

「そんなに無理することじゃないのに」

「すべては父さんが決めたことだよ。
無理やり退院させてさ。今日に透と奥さんを実家に挨拶に来させて。
明日は親戚へのお披露目。
こんなに無理をさせて流産でもしたらどうするんだろうね」

「本当ね。まあ、あまりに辛そうなら私が彼女を連れて抜け出すわ」

「琥珀、ありがとう、助かるよ」

「いえいえ、至さんの心労を思えばお安い御用」

琥珀は本当に理解があって助かるよ。
他のイトコは全然ダメだけど。
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