可愛い弟の為に
透はハルちゃんの手を引いて和室の一番奥、中央に座っている武伯父さんの前に行き、正座をした。

ハルちゃんも透とほぼ並んでいたが、少しだけ後ろに下がり、正座をした。

「ご無沙汰しております」

透の所作は本当に美しい。
思わず見つめてしまう頭の下げ方だった。

その後は武伯父さん、嫌み連発。

何故、こちらに帰って来ているのに、家に来ないとか。
別にいいと思うんだけどなあ…。
透だってまともな休みもなく、ほぼ働き詰めだし。
いちいちアホな親戚を相手していられない。

それら屁理屈を透はサラリと返した。



「…透と同じ高校か」

ハルちゃんの学歴を聞いた武伯父さん。
馬鹿なイトコ達がざわつく。

「ほう…透にしてはその程度か」

宏伯父さんはニヤニヤしていて、完全に馬鹿にされている。

一言、ぶちまけてやろうかと思ったが透は

「高卒でも日商簿記1級の資格があり、会社でも経理をしています。
学歴は関係ないと思いますけど」

淡々と答えた。

まあ、宏伯父さんの子供よりはうんと格上。

就職は全て親のコネ。
ハルちゃんは自力だしね。

「で、式はいつするんだい?」

慶叔父さんはそれが気になるらしい。

「妻の体調次第です」

一瞬、その場が静まり返った。

「…何、それはきちんと説明してくれよ」

宏伯父さんの長男、貴一が大体想像がつくのにわざと透に聞く。

透もそれをわかっていて、あくまで淡々と答えた。

「今、妊娠7週くらいです。
昨日まで入院していましたので」

貴一の弟、高史が鼻で笑う。

「お前、出来婚って恥ずかしくないのか?」

…お前の就職遍歴よりはマシだろう。

親のコネで入社しては2〜3ヶ月で辞め、それが30回くらい起こった後、とうとう宏伯父さんの会社で雇われた。
そうしないと辞めてしまう。
更に宏伯父さんの力を利用して数々の女性遍歴を持つ。

「別に」

透の氷のような冷たい目が高史を捉えた。

「最初から結婚するつもりだったから僕にすれば何も問題ない。
ちゃんと入籍もしている。
お前みたいに女関係で会社から謹慎処分食らう方が恥ずかしいわ」

「う…うるさい」

「うるさいのはお前の方だ」

堂々巡りだ!
僕は机をバン!っと叩いた。

「もうその辺で止めろ」

透と高史はその瞬間、言い合いを止めた。

一応は透の結婚祝いを兼ねた宴である。

「そういう言い争いは本当に時間の無駄だ」

何よりハルちゃんが可哀想だ。
僕がそう言うとイトコ連中は黙った。

「式の日程がわからないとこちらも予定が…」

慶叔父さんはそればかりを気にするので

「まあ、そんなに固く考えなくても良いと思いますけど。
透の事なのでその辺はきっちりするかと思います
まあ、出席出来なくても問題はありません。
そもそも透が式とかそこまで考えずに勝手に入籍していますので、その辺りはお気になさらないでください」

僕が言うと、琥珀が周りにバレぬよう手を叩いた。

「しかし、子供が先とは。透もだらしがない」

武伯父さんは呆れ顔。
そんな様子を見て、透は口を開いた。

「20年…」

透は一瞬、大きく息を吸って武伯父さんを見つめる。

「僕は20年、この時を待っていました。
妻と一旦別れて…いや、別れさせられて、それでもどこかで想い続けてきました。
そりゃ大学の時に彼女がいたりしましたが、すぐに別れてしまいました。
お見合いも全て断ってきました。
ずっと、僕の中に彼女がいたからです。
もう誰とも結婚しないで生きていこう、と思っていたら偶然再会したのです。
妻もまだ結婚していなかったし、このチャンスを逃すわけにはいかない。
…僕が強引に押し切ったのです。
だらしがないというならそれでも結構です。
でも、これは僕の人生を掛けた我儘ですので僕の事はいくら言ってもらって結構。
ただ妻の事は決して悪く言わないでください」

透。
自分の気持ちを伝えきったな。

面白くない顔をしているのはイトコ達。
琥珀以外はムスッとしている。


「…おめでたい話なのに」

今まで一言も話さなかった琥珀が口を挟んだ。

「純叔父さんにとっては透の奥様のお腹にいる子が初孫なのよ。
どうして素直に祝福してあげられないのかしら。
それに…少し顔色が悪そう。
つわり、酷いって聞いてるから、向こうに行ってゆっくりしましょう。
馬鹿な話は男どもに任せておいたらいいのよ」

琥珀はハルちゃんの元へ行き、手を取った。

「透、奥様を向こうで休ませますよ。
あなたはここの石頭たちに自分の意見をわかるまで訴えてなさい。
それくらいは出来るでしょ?一族で一番聡明なんだから」



琥珀ー!
桃ちゃんがいなかったら、僕は惚れているぞ!
やるなあー!

ハルちゃんの事、頼んだ!!
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