可愛い弟の為に
「本日は誠におめでとうございます」

式場のスタッフが笑顔で挨拶を述べる。

「ありがとうございます」

心のこもっていない、上辺だけの返答。
透がそばで心配そうに見つめる。
心配するな、お前のせいではない。

「こちらです」

控室に入ると桃子さんが美しい打掛姿で座っていた。
元々、それなりに整った顔をしていて、さらに若いこともあって美しさが際立っている。
今日お越しの方々は感嘆の声を上げるだろう。

「おはようございます。
どうも、お疲れ様です」

桃子さんにかけた言葉がコレ。
仕事じゃないんだから~!って自分で自分を突っ込む。

「本当に、疲れました。
もう帰りたいです」

大きな目が潤んで泣きそうになっている。
泣きたいのはこちらも同意です。



今日一日をどう切り抜けるか。

僕の頭の中はそれしかなかった。
桃子さんを傷つけるわけにはいかない。
きっとキスなんてオーダーされたら、全力疾走で逃げるだろう。
こんな大規模な舞台で表面上、何事もなく切り抜けようだなんて。

そんな大物役者になれるのかねえ、僕。
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