可愛い弟の為に
5.兄のお願い
それから時は流れ。

僕は38歳で内科部長になった。
が、内科部長はもう一人、50代の方がいる。

この病院はやたらと役職の高い人が多くて本当にこの人で部長、大丈夫?みたいな人もいる。
僕もそう思われないように気を付けないと。



病院の小児科が廃止されるかも、という大事件が起こったのは僕が43歳になる年の正月早々だった。



その日の会議は大紛糾していた。

「これ以上、小児科からは人を出せません」

小児科医長の若林先生は今日は一歩も引かなかった。

「こんなことなら救急受け入れは止めるべきです」

ごもっとも。
市立病院で一本化して欲しい。
そこにバイトで僕達が行く形を取ればいいだけの話。

「それではこの病院の価値がなくなる」

外科部長が3人、次々と若林を責める。

「では、私達に死ねというのですね、先生方。
今の小児科の現状をお解りですか?NICUも抱えて、特に新生児科専門は太田先生一人。
フォローに入れる小児科医にも限りがあります。
女性の先生方、特に小さなお子さんをお持ちの先生に同じように当直をお願いすることは出来ません」

「働いている限りは男女平等であるべきだ」

お前の奥さんは専業主婦だからそんな事が言えるのだよ、父さん。
僕は握り拳を作った。

「そうですか。それがこの病院の管理者の答えですね、よくわかりました」

ああ、辞める。
僕はそう思った。
若林先生が辞めると多分、あと2人辞めるぞ。



その瞬間、透の姿が僕の脳裏に浮かんだ。
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