可愛い弟の為に
「…父さん、小児科医が大嫌いなんだね」

電話の向こうの透は冷たい声をしていた。

「嫌いかどうかはわからないけどこのまま行けば春には小児科は廃止になる可能性が大、なんだ」

あの会議の後、僕の予想通り、若林先生は3月末での退職の意志を父さんに伝えた。
他にも2人が退職の表明をした。

残る小児科医は新生児科医の太田先生も含めて4人。
太田先生は基本NICUなので3人で外来と当直を回さないといけなくなる。

若林先生と後の2人で6人確保していたのに。

そのうち2人が女性、子供が小さく、当直はさせられない。

となると小児科の当直は実質1人で回さないといけない。

更に病院全体の当直も入ってくるのでその1人に相当負担が掛かる。

もう、今の医療体制の維持は無理だった。

「紺野の小児科が廃止に…」

透の声が曇った。

「地域的にも無くなると厳しいね。
NICUを抱えているだけに、他の病院への影響力が凄まじい」

透は悲しそうに言った。



こんな事を透に頼むのは筋違いだ。

けれど…頼む相手は透しかいない。

「透、こちらに帰ってきて助けてくれないか?」



その問いに透は黙り込んだ。



「…ごめん、変な事を言った。
透だってたくさんの患者を抱えているのにね。
でも僕がお願い出来る小児科医は透しかいないんだ」

内科なら知り合いは沢山いるけどね。



「兄さん、即答は出来ない。
少し時間を頂戴」

まさかの回答だ。

即時に断られると思ったのに。
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