君が好きになるまで、好きでいていいですか?

俺が彼女、沢村万由を初めて見つけたのは
一年半くらい前だ



あの日は、パソコンのシステムエラーの上に、立ち上げ直した途端三日分のデータを上書きされた

事務の子を残業させる訳にはいかず、何人かの営業部男性社員に手伝って貰って、
最後は俺一人泊まり込み作業を終わらせた

疲れはてた時、窓の外が明るくなったのを見て、太陽を浴びようと屋上へ上がった

灰皿が設置してある煙草を吸うためのベンチに、凭れ掛かると、途端に眠気に襲われボウッとなった



始業まで後一時間かぁ…………眠いなぁ



「おはよう。」


聞こえてきた声に目を開けると、それは決して俺に向けた言葉ではなかった


制服着た女子社員………? 一般職の社員か

会社では総合職の女子社員は私服だ


屋上の出入口から真っ直ぐ先にあるベンチに座っている彼女の後ろ姿が目に入った


「…………」


何かに話し掛けてるようだ………すずめか?
朝早く来て、すずめとお喋りか、呑気なこった

「写メなんて、見なきゃよかった………」

はぁっ、と盛大な溜め息をつきながら二匹のすずめを眺めている


どうせ、恋愛の悩みなんかの溜め息だろう


大体、一般職として入社してきた女子社員ってのは、結局結婚退社目当てで、勝手に社内の男どもにランキングなんか付けやがる

なんとなく、彼女の華奢な肩が目に写る

もう一度目を閉じると、疲れた身体が墜ちていく感覚がした


でも次の瞬間すぐに意識が戻された


なんか温かい…………


「あの…………大丈夫ですか?」


「っ!!」


「具合が悪いんですか? 熱は無いみたいですけど」


近すぎる声がして、
彼女の手のひらが後藤の冷たい額を温める


びっ、びっくりしたぁ……………

優しくて柔らかい彼女の手のひら
こんな風に額に手を当てられ、熱を計られたのは久し振りだ

すこしだけ、彼女の親指が目の前をふさぐ


「…………だ、大丈夫。徹夜明けなだけですから」
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