君が好きになるまで、好きでいていいですか?


親戚関係でいえば、弟の子(甥)である企画部主任浅野由哉(あさのゆうや)のいとこにあたる


会社一族入りの縁談
決して悪い話ではない男としては…………
山吹薫は父親の秘書をしっかりこなしているし、なにより狸父親とは違って美人だ


「今、結婚するとかそういった希望はありませんから」


彼女が俺に気があるのも話がある前から知っていたが、やっぱり気持ちに答える事はできなかった。

それに今はもうすでに沢村万由に堕ちている


「私が何も知らないとでも思ってるんですか?」

「…………」

薫がさっき降りてきた屋上へ視線を移す

「沢村万由さんでしたっけ、最近桜井さん達が騒ぎだしたあなたの態度の現況…………」

そう言われて一瞬、ピクッと眉をひそめる


「別に、隠してる訳ではないですよ。でもこれは一方的なものですから…………」


「それが気に入らないんです。私にはどうにかする事もできるんですっ」

後藤が盛大な溜め息をつく


「彼女は企画部事務、浅野企画部主任の下で働いているんですよ。ヘタな事をすれば彼が黙っていません」

後藤の出した浅野主任の名前に薫がグッとのどを堪える

「彼に何が出来ると言うんです?降格させられたただの社員じゃないですか………」


「……………余り彼を買い被らない方がいいですよ。兎に角、お断り申し上げた事を取り下げるつもりはありません」


薫の顔がみるみる悲しげに歪んでいく


「どうして私を選んでくれないの?佳樹さんはいつでも私に優しかったじゃない………それに、貴方はなぜ由哉さんと一緒にいられるの? 私には理解出来ません。」


「…………昔の事です。お互い前を向いていかなくては…………」

俺だっていつまでも過去にしがみついている訳にはいかない

確かに出世に興味がないわけじゃないが、


『実力以外でのし上がって何が楽しくて仕事が出来る?』

そんな事をよくあの先輩は俺と飲みに行って話した

初めはどんな屁理屈だと思った。実際に降格させられたのは自業自得だったし


でも、それからの先輩の仕事ぶりに、誰も何も言わなくなっていったのは明白だった


「…………」


……………とはいえ、男には理解出来ない女性の陰湿な行動までは摘み取れない


「今は仕事に集中したいと言ってるだけじゃないですか………」

そう言って笑顔をむけて、彼女の頭を優しく撫でた


「……………」


薫は黙って俯いたまま、その後藤に少し頬を赤らめた




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