それでも君を愛せて良かった
「……綺麗だよ。
すごく綺麗になった。
長い間、顔も洗えなくて気持ち悪かっただろ?
今日から毎日僕が綺麗にしてあげるからね。」

次に僕はそのしなやかな髪の埃を払い、櫛で優しく梳かし付けた。
何度も梳いてやる度に、その髪には少しずつ光沢が表れた。



「……嬉しいんだね。
そうだよね…髪は女の子にとって大切なものだもんね。
梳けなかったから、いやだったよね。
でも、こんなに綺麗になった。
これからは僕が毎日梳かしてあげるよ。」

光沢の出た金色の髪は、昨日よりもずっとしなやかで絹糸のようにすべらかになった。



「あ…そうだ。
まだ、自己紹介をしてなかったね。」

僕はそう言いながら、彼女の横に同じような態勢で座った。



「僕はこの家の息子で、アベルっていうんだ。
年は二十歳。
今は、父さんと一緒に細工職人をやってるんだ。
……っていっても、僕はまだ見習でたいした仕事はさせてもらえないんだけどね。
僕の家族は父さんだけなんだ。
母さんは僕がまだ小さい時に亡くなって、兄さんはもう何年も前に都会に出て行って、ここには滅多に帰って来ない。
でも、寂しいことなんて少しもないよ。
僕はこの町がけっこう好きだし、人と関わるのもあんまり得意じゃないからね。
ねぇ…君は…」

ふと、横を向いた時、しなやかな金の髪の向こうに、彼女の横顔がのぞいて、僕の心臓は飛び跳ねた。
長い睫毛に覆われた青い瞳、鼻筋が通り、色褪せてはいるけれどふっくらとした唇。
正面から見た時よりも憂いを含んで少し大人っぽく見えて、僕の鼓動はなかなか落ちつかなかった。
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