それでも君を愛せて良かった
「え…えっと……」

僕は動揺を悟られまいとして、視線を元に戻した。



「君の名前を教え……」

言いかけて僕は気付いた。
彼女には、僕に名前を伝える術はない。
いや、もしかしたら、名前自体ないのかもしれないし、長い眠りの間に忘れていることだってあるかもしれない。



「そうだ、僕、君の名前をあててみせるよ。
う~ん、難しいな。
でも、なんとなくわかるような気もするよ。
君の名前は、きっと響きの綺麗な名前だよね?
そうだろう?」



(彼女にぴったりな名前って、どんな名前なんだろう?
グレース…?
いや…違う、もう少しふわっとした…
マリアン…?
う~ん、ちょっと違うな。
だったら……ファビエンヌ……
うん、そうだ!ファビエンヌだ!)



「わかったよ!
君の名前はファビエンヌだ。
ね、そうだろ?」

その名前は自分で言うのもなんだけど、本当に彼女のイメージにぴったりで…
僕は、そんな名前を思いついたことで少し誇らしげな気持ちで、彼女の顔をのぞきこんだ。

もちろん、彼女は何も答えることはなかったけれど、僕にはどことなくその通りだと言って喜んでいるように思えた。
ただの思いこみだとしても、僕はそのことがとても嬉しくて…
彼女を名前で呼べることが嬉しくて…

僕は、思わず、彼女の手を握り締めていた。
それに気付いて僕の顔は火を噴きそうに熱くなったけど、それでも、その手を離したくはなかった。
何も言わず、ただ重ねただけのその手が、まるで彼女と僕の繋がりのように思えたから…
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