パンプスとスニーカー
 弟がいるのだから今更なことのはずなのに、まったく意識することなく接する肉親とはまるで違うこの気持ちはなんなのだろう。




 「ひまって、アクション派?普通にラブロマンス映画とかの方がいいのかな?それともコメディがいい?」

 「ん~、ホラー以外だったら、なんでも大丈夫だから、武尊の好きなのでいいよ」

 「…さっきも言ってたね、そのセリフ」

 「あ…、ダメかな?」




 ダメなものはダメだとあらかじめ断っておく。


 けれど、それ以上のこだわりがないのなら、相手に任せてしまう。


 その代わり、どんなものを選ばれようと文句や不満を言うつもりはなかった。


 困って小首を傾げるひまりに、武尊がクスリと笑う。




 「なんでもいいって、女の子が言う場合、たいていなんでも良くはないんだよね」
 
 「あ~、えっとね」

 「でも、ひまの場合は、あらかじめダメなものはダメだと前置きしてくれてるから、それ以外なら本当に大丈夫ってことでしょ?」

 「…うん」

 「なんでもいいって言うくせに、こっちが提案するとあれこれダメだしする女って、実は苦手だから、ちょっと安心」

 「そ、そうなんだ」




 実はひまりにも経験がある。


 …女の子に多いよね。


 どこがいいと聞いて、どこでもいいと言われてしまい、しかたなく提案するとあれやこれ、満足するまで否定してけっきょく自分が満足いく提案が聞けるまで繰り返す人間は案外少なくなかった。


 それを嫌だとまでは言わないが、なんだかな、と思うことはひまりも度々ある。




 「これ…いま話題のスピード・アクション。観たいなって思ってたから、これでもいい?」

 「うん、あたしもこういうの好きだよ」

 「じゃ、これにしよっか」




*****




 映画を観て、ヒルズ内にある大都会の中の大庭園を散歩して、疲れた足をカフェで休め、武尊に当初示されていたプランをこなして、気が付けば楽しい時間はあっという間に過ぎていた。




 「足、大丈夫?」




 万全対策で望んだつもりだったけれど、やはり履き慣れたスニーカーとは違い、多少なりともヒールのあるパンプスは慣れないひまりには負担だったようだ。


 靴ズレまではしていなかったけれど、多少浮腫んでいるらしく、足が痺れたように痛んで重い。




 「ここにいる間だけでも、靴脱いでたら?」

 「え~?はは…大丈夫」




 オシャレなカフェの店内では、さすがに憚られて苦笑い。


 武尊の心配そうな顔に困って、しかたなく見るともなく窓の外へと視線を反らす。




< 240 / 262 >

この作品をシェア

pagetop